メニューを増やすこと自体は、悪いことじゃない。独創性があるし、いろいろ試したい気持ちはわかる。でも、思い付きでどんどん増えていくメニューに、私はだんだんついていけなくなっていった。
手書きのメニューブックに、全部追加しないといけない
オープニングスタッフにイラストや写真撮影が得意な子がいた。メニューブックを可愛いものにしたい、というのは自然な流れだった。手書きの、温かみのあるメニューブックができた。
ただ、それが何冊かある。メニューを一つ追加するたびに、全冊に書き足さなければならない。
この作業が、私にはとにかく面倒だった。壁にしか貼っていないメニューも出てきた。どこに何があるのか、全体像がだんだん把握しにくくなっていった。
会計のたびに、メニューブックをめくる
メニューが増えると、会計が大変になった。
レジで金額を出すには、何を注文されたかをメニューブックで照合して、計算しなければならない。POSシステムのような仕組みはなかった。スタッフが接客中の時は、私がかわりに会計をやることもあった。慣れないうちは時間もかかるし、間違えないか不安だった。
メニューが少なければ、慣れで対応できる。でも増えれば増えるほど、その分だけミスのリスクも手間も増えた。
スタッフが変わるたびに、また一から
人の入れ替わりがあるたびに、メニューを説明しなければならなかった。
どこに何が書いてあるか、壁のメニューはいくらか、そういうことを一つひとつ教えるのも手間だ。それでも見つけられない時は「どこに書いてありますか」と聞かれる。こちらも毎回答えるうちに、少し消耗していった。
「いいね」と言えなかった
新しいメニューを追加したいと言われるたびに、素直に「いいね」と言えなかった。
追加するたびに、メニューブックの更新、会計の手間、スタッフへの説明、すべてが増える。効率を考えると、メニューは絞った方がいい。でもそれを言うと、「また反対している」「何も考えてくれない」と受け取られた。
だからといって削ろうとすると、怒られた。増やしても減らしても、どちらでもうまくいかなかった。
仕組みがなければ、メニューは負債になる
後から思うと、手書きのメニューブックのまま運用しようとしたのが、そもそも無理だったと思う。
メニューを柔軟に増やすなら、管理の仕組みもそれに合わせて変える必要があった。デジタルで一元管理できれば、追加も会計への反映も、もっとシンプルにできたはずだ。
気持ちの問題ではなく、仕組みの問題だった。そこに気づかないまま、ただ疲れていった。