飲食業には、FLRコストという考え方がある。

Food(仕入れ)、Labor(人件費)、Rental(家賃・水道光熱費)の頭文字をとったものだ。この三つが、飲食店の主要コストのほぼすべてを占める。

日割りで考えると、損益分岐点が見えてくる

FLRコストを日割りで考えるべきだった。

バイト代は、シフトを組んだ時点で一日いくらかはほぼわかる。仕入れは日によって変動するが、一週間単位で見ればおおよその額は出せる。家賃と水道光熱費は、月額を営業日数で割るだけだ。それだけで「一日あたり最低いくら売れば赤字にならないか」がわかる。

月に閉める日を除いて25日営業するなら、月のコスト合計を25で割る。その数字が、一日のトントンラインだ。

難しい計算ではない。やろうと思えば、すぐにできる。ただ、仕入れと水道光熱費は事前に見積もりが難しい。買い物を繰り返すにつれて徐々につかめてきた。水道光熱費は季節によって、また冷蔵庫などの設備によって、ずいぶん変動するようだ。

例えば、典型的にはこんな感じだった。営業日数25日、家賃15万円、水道光熱費5万円とすると、日割りは家賃6,000円、水道光熱費2,000円になる。バイト代は16:00〜22:00まで時給1,000円なら6,000円。日々の仕入れはおよそ10,000円。実際にはお酒や調味料など定期的に購入するものもあったので、仕入れはもっとかかっていたと思う。

それでもこの範囲だけで合計すると24,000円以上売り上げてやっとトントンだ。来客10人だとすると、一人あたり2,400円以上注文してもらう必要がある。相当厳しい数字だとわかる。

計算してみたら、売上が足りなかった

気づいたのは、経営がある程度回り始めてからだった。

実際に計算してみると、現状の売上では日々のコストを賄えていないことがはっきりわかった。感覚ではなんとなく厳しいとは思っていたが、数字にすると明確だった。

その時点でやるべきことは、単価を上げるか、コストを削るか、客数を増やすか、その組み合わせしかない。選択肢は限られていた。

また、売上には上限もある。料理の手数、厨房設備、段取り、上手さによって、営業時間内に出せる数は決まってしまう。だから、メニューも提供時間を考えて手数が少なくなるように設計しておくべきだった。こんな料理が受けるだろう、という発想では駄目だったのかもしれない。それが今思う反省点のひとつだ。

しかし、そういったことに気づいたのは、5〜6年たってからだった。料理の準備や提供に少し慣れてきて、ようやくそういったことに気がまわるようになったからだ。

それでも、動けなかった

数字はわかった。でも、動けなかった。

値上げは客が離れる気がした。バイトを減らすと回らない気がした。家賃はどうしようもない。そういう「気がする」が積み重なって、結局何も変えられなかった。

改善を先送りにしたまま、損失だけが続いた。気づいてから閉店まで、状況はほとんど変わらなかった。もう進められないというところまで来て、ようやく終わりにした。

早く計算していれば、選択肢があった

後悔するのは、FLRコストを計算するのが遅かったことではない。そもそも理解していなかったことだ。

ただ、もっと早く数字を出していれば、まだ選択肢があるうちに判断できたかもしれない。追い詰められてからの判断は、どうしても遅くなる。

日割りで損益分岐点を出すことは、開業前からできる。やっておいた方がいい。